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名古屋地方裁判所 平成2年(む)462号 決定 1990年6月30日

主文

本件申立てを棄却する。

理由

第一  申立ての趣旨及び理由

本件申立ての趣旨及び理由は申立人提出の準抗告申立書と題する書面に記載のとおりであるから、これを引用する。

第二  当裁判所の判断

一  本件記録、被告人AことBに対する覚せい剤取締法違反被告事件(名古屋地方裁判所平成二年わ第四四五号)及びC子に対する覚せい剤取締法違反被告事件(名古屋地方裁判所平成二年わ第一三七号)の各記録並びに当裁判所の事実調査の結果によれば次の事実が認められる。

1  申立人は、現在審理中の名古屋地方裁判所平成二年わ第四四五号、被告人AことBに対する覚せい剤取締法違反被告事件の弁護人である。

2  右AことB(以下「被告人という。」)は平成二年三月二二日、覚せい剤譲受けの事実で名古屋地方裁判所に起訴され、同事件の公判において右起訴事実を全面的に否認しているところ、検察官は、証人として、被告人に覚せい剤を譲渡したとするD、右譲渡の現場に居合わせたとするC子及びEらの証人尋問を請求し、右Dの証人申請が採用され(他の証人の採否は未定。)、現在、右証人Dに対する検察官の主尋問が終了し、弁護人の反対尋問が続行中である。

3  申立人は、右D証人の反対尋問に先立ち、同裁判所に対し、平成二年五月二四日付けで、右起訴事実に関して作成された右検察官申請にかかる各証人の検察官、司法警察員及び司法巡査に対する各供述調書並びに被告人が平成二年二月二一日逮捕、その後引き続き勾留された別件の覚せい剤取締法違反被疑事件に関して作成された右各証人の検察官、司法警察員及び司法巡査に対する各供述調書の証拠開示命令の申立てをした。

4  検察官は右D証人の主尋問終了後同人の検察官に対する供述調書を申立人に開示し、同裁判所は第三回公判において検察官に対し右起訴事実に関し作成されたDの司法警察員又は司法巡査に対する供述調書三通についてこれを開示すべき旨の勧告をした。

5  ところで、前記C子は右起訴事実に係る覚せい剤と関連して入手したとされる覚せい剤の使用事実により平成二年四月二七日判決を受け、同判決は平成二年五月一二日確定した。

6  そこで申立人は刑事確定訴訟記録法四条一項に基づき、平成二年六月二八日右事件の訴訟記録(以下「本件確定記録」という。)の閲覧を、その保管者である名古屋地方検察庁検察官に対し請求したが、同庁検察官は同日、「検察庁の事務に支障がある。」との理由で不許可処分とした。

7  右の「検察庁の事務に支障がある。」とは、検察官において、申立人が閲覧を求める本件確定記録の当事者であるC子は被告人の覚せい剤取締法違反被告事件の公判で検察側が当初から人証として申請しているものであり、検察側には同女の供述調書を証拠調べ請求する意思はないのであるから、いまだ同女の主尋問すら終了していない段階で申立人に本件確定記録を閲覧させることは被告人に対する右被告事件の公判に不当な影響を及ぼすおそれがあると判断したものである。

二  刑事確定訴訟記録法は、刑事被告事件に係る訴訟の記録の、訴訟終結後における適正な管理を図るため、その保管並びに保管期間満了後における再審の手続きのための保存及び刑事法制等に関する調査研究の重要な参考資料としての保存について必要な事項を定め、あわせてその閲覧に関する規定を整備することを目的とするものであるが、同法四条一項は、保管検察官は、請求があつたときは、保管に係る刑事訴訟法五三条一項に定める訴訟記録を閲覧させなければならないとするものの、同条一項ただし書に規定する事由がある場合はこの限りではないとして、訴訟記録の保存又は裁判所若しくは検察庁の事務に支障があるときは閲覧させないことができるとしている。

そして、「裁判所若しくは検察庁の事務に支障があるとき」とは、裁判所又は検察庁において、裁判の執行、証拠品の処分等裁判所の事務又は検察官の事務を遂行するために訴訟記録を使用している場合のほか、訴訟記録を閲覧させることが、関連事件の捜査、公判に不当な影響を与える場合も含まれると解するのが相当である。

ところで、閲覧請求のあつた訴訟記録の刑事被告事件と共犯等で証拠の共通する関連事件が審理中である場合において、確定訴訟記録の閲覧請求が、実質的には現に継続中の関連事件である刑事被告事件についての証拠開示を目的とする場合には、本来証拠開示の可否は当該訴訟の審理における当事者の判断と裁判所の適正な訴訟指揮権の行使によつて決せられるべきものであると考えられるから、保管検察官において、関連事件が審理中であり、その公判に不当な影響を与えるとして閲覧させないことも合理的な裁量の範囲としてこれを是認することができる。

三  そして、前記認定した事実に鑑みると、申立人に対し本件確定記録の閲覧を許可しなかつた検察官の処分は右合理的な裁量の範囲内として相当と認められるから、本件申立ては理由がない。

よつて、刑事確定訴訟記録法八条二項、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項により主文のとおり決定する。

平成二年六月三〇日

名古屋地方裁判所刑事第四部

(裁判長裁判官 小島裕史 裁判官 石山容示 裁判官 松原里美)

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